スクーデリアによる電気的音楽考察

第三話:「文通レコーディングの思い出」

text:吉澤瑛師

 今更ながら文通レコーディングの事などちょっと書かせてもらいます。僕 は英語の勉強と心の休養をしたく思い96年<スクーデリア結成時>から98年秋に かけてロンドンに滞在していました。音楽を仕事から切り離していろいろなこと考え たかった。そのことと語学のことも考えて1年は一時帰国も出来ないというワガママ をお願いした結果、東京〜ロンドン間でハードディスクレコーダーのデータを送りあいながらレコーディングをするという、前代未聞の文通 レコーディングがはじまりました。そんな勝手を許してくれたスクデリチームのみんなに感謝しています。

  初めて東京のイシヤン達から届いたデータは「BETTER DAYS」だったかな。僕のハードディスクレコーダーに音が発ち上がった瞬間、その感 覚は不思議なものだった。さっき学校から帰ってきてルームメイトの ジェラルドにたどたどしい僕の英語の会話につきあってもらったあとのことで、他に 誰もいない僕一人の音楽室で東京で録音されたその音がなり始めると、姿は見えない けど<煙の様なモノは見えたかも!>イシヤン、寺田さん、高原君の「空気」がボワっと部屋に広がった。あの感覚はすごかったー。その瞬 間、文通レコーディングの不思議な時間が始まった。全く予期せぬ感覚につつまれて 興奮してきて、「ウン!今度はここの空気をシンクシンクスタジオにボワっと ...!」などと。なんか、「ダルマさんが転んだ」をやっているときのようなスリル さえ感じた記憶。。。

 そんな勘違いを、ずっとしていられるはずも無くいつしか音創りに没頭し ていた。2バージョン創るが、やはり飛行機で4日間ぐらいかけてデータを送るとなると慎重になってしまうもので、もしみんなが気に入らなかったらど うしようとか、次の便で送るとなると実際の作業日数プラス4日間かあなどなどとか 考えてしまい、人の意見も聞いてみたくてとりあえず英語の家庭教師に聴いてもらったところ、なかなかイイジャン!的な感じだった。そのと きイシヤンのヴォーカルが日本人ポクなくて<ロンドンで一般的に日本のポップの印 象はあまり良くないみたい>イイネーといわれ、ちょい気分良かった。その勢いで送 ったものの、日本からの返事待つこと一週間はやはり落ち着かないものだった。

 お次のレコーディングは「シロツメクサ」の電話ライブセッション!これまた無茶なー!といいつつも、電話とミキサーの接続ケーブルを調 達に行くが、これまた一苦労だった。日本のように何でも簡単に手に入る感じでもな く、最も、渡英してまだ間もなかったし英語力の問題も多分にあり、感覚としては宇 宙服を着て街を歩いているようなかんじで、思うように事が進まないことが多かった。

 どうにか、ブツを調達してさてレコーディング日を迎える!日曜の昼間だ ったか、学校休んだか、とにかく午前中からスタンバイして、さてと言うときに‘ビ リっ!‘というイヤーなかんじの結構強い感電。何がこわれたかなーーーと探ると、 どうやらハードディスクレコーダーのミキサーは1ch死んだだけで済んだが、電話機 <ファックスマシーン>と僕の電話回線は完Sに死んでしまった!かなりパニック状 態の中、大家さんの電話回線をかりるが、こんなときにでも、この複雑な状況を、そ れも必要以上に事細かくどう説明したら... などと考えてしまう語学学生の悲しい 性に気づく余裕もなく、でもどうにか回線を借りたものの、またしても火花が!不幸 中の幸いにも大家さんの電話機をぶっ壊しただけで回線は生きていた。国際電話でイ シヤンにそれを話し、結局苦労して調達した電話とミキサーを繋ぐケーブルは使わず 一番原始的な方法でやることになった。受話器の聴く方にマイクをあててそれをスピ ーカーから流し<イシヤンの歌はここから聞こえる>、僕が弾いているピアノの音は 受話器のしゃべるところにピタシと着けられたヘッドフォーンから国際電話回線にの ってシンクシンクスタジオに届く。

 ここに行きつくまで数時間。これまた、宇宙服をきて1km泳いできたかん じの感。おそらく、ボロボロの姿にてピアノに座りセッション開始。はじめはクリッ クが聞き取りにくいなどで、ウーやりにくい!と耳を澄ます。たぶん首だけ横向いて スピーカーにみみを向けていたような記憶。しかし、さっきまでこっちの苦労も知ら ず憎たらしいことばっか言ってたイシヤンの声が、今度は何か懐かしい音楽に変わっ て‘浮かび上がって‘きた。ゾワーっと寒気がした。これも、予期していなかった感 じの感動だった。終わった後の、暖かい気持ちを覚えている。自分から5m位離れた 階段の踊り場のあたりで、壊してしまった電話回線と大家さんの電話機、最後にハー ドディスクレコーダー&faxをどうしようという気持ち達が、じっと僕を見つめていたが... それでも、しばらくその温もりの中に包まれていた。

 実際、全編をアルバムには収録できなかったけれど、そのとき同時に記録 していたミディデータとミックスして完成。だけど、その体験自体がすごく価値のあ るものでした。たまにイシヤンとのピアノ一本のセッションをやると、独特な気持ち 良さを感じるのはこのときの温もりが無意識のうちに甦っているのかなと、今思いま した。

では、また!。


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