スクーデリアによる電気的音楽考察 

第二話:「NewYork City Boy」にみる作曲上の技工

text:石田ショーキチ

この秋リリースされたペットショップボーイズの「NewYork City Boy」という曲は世界中のペットショップファンのみならず往年のディスコファンを も喜ばせる佳曲であった。今回はこの曲について考えてみたいのだが、往々にして、 音楽の良さ=どのようにいいのか或は悪いのかという表現は、極く感覚的/精神的と いうよりも精神論的なものを文学的な物の言いまわしで語られることしかされていな いのが現状で、それが非常に不満に思う時が多々ある。ロック雑誌をほとんど読まな くなったのもその辺りにとてもうんざりさせられるからで、たまには音楽理論なども 含めて音楽をきちんと音楽として見た上で、この楽曲がいかにすぐれた構成をしてい るかという分析をしてみようと思う。

まず一聴してわかるところなのだが、テンポ感が非常に良い。テンポとい うと普通BPM(Beat per Minute、つまり一分間に何拍打つかという音楽の上での速度を表す単位)に目がいく が、ここでいいたいのはそのテンポ=物理的速さのことではなく、リズムの雰囲気や ノリという、言葉でいうところの語呂のようなものである。昔からペットショップの 曲というのは、大きめな符割りのメロディーが多い。つまり16分音譜などの細かい音 譜をあまりつかわずに大き目な音譜で大柄なテンポ感を作る。かつ1セクション中は 2/3オクターブ程度の音域の中であまり派手に上下しない音階をとる為、非常にゆっ たりとした覚えやすいメロディーラインになる(余談:これはヒットカバー曲「Go West」にも言えることで、ビレッジピープルのオリジナル曲の歌唱スタイルは非常に スタッカートが効いて歯切れのよい16分的アプローチバリバリのファンキーな曲だ が、これがニールの「溜め」のアプローチにかかると非常にマッタリした曲に変身す る!おそるべし!)。ところがサビに来るとマッチョコーラスがファンキーにリズム 感ばっちりにハリキって登場して雰囲気を引き締め、目茶苦茶メリハリが効いた印象を与える。

もう少しフォーカスを狭めて行くと、サビのコード進行の巧みさに目がい く。B♭maj7(フラット記号がpc上で表示されなければ=A#maj7)、Gm、Am、Dmという コード進行なのだが、頭のB♭maj7はこの曲のキーであるFから数えて四度目のコード で、サブドミナントと呼ばれる役割にある。サブドミナントから始まる進行というの は、なんというかここから一テーマいくぞというような新たな展開が始まるような雰 囲気を出しやすいのだが、そのサブドミナントから始まる進行が、実はイントロ、 Aメロ、Bメロ、サビまで、全部同じ上記のコード進行なのである。この繰り返しによ って各セクションで一々盛り上がり、この一見気づかない循環による洗脳パターンが 実にミニマルに脳裏に焼き付ける作用を促し、見事というほかない。因に、この4度 のコードで始まり6度のコードで終わるという僕の言うところの「夕暮れ進行」は、 ある時期ヒットパターンでもあった。それは80年代後半のユーロビート事情で、リッ クアストリーのヒット曲「Together Forever」「Never Gonna Give You Up」など皆このパターンである。非常に似た方法で出だしを4度ではなく2度の 7th(この曲の場合ならGm7にあたる)で始めると「Whenever You Need Somebody」になったり、マイケルフォーチュナティーのヒット曲「Give Me Up」「Into The Night」のパターンとも一致し、この手法と4分打ちキックとの相性の良さを歴史上の ヒットが証明している。因にこの手法は我がスクーデリアエレクトロに於ても「霧の 200マイル」「My Pray」で応用している。

更におもしろいのがサビにおける音階の取り方である。”ニューヨークシ ティーボーイ〜”のサビのメロディは「レ、レ、レレ#、ド、、ラ#ドド、ドレ、フ ァ、レ」テキスト上では音譜がかけないので階名書きが情けないが、まあこんな感じ である。耳の良い人はサビの歌詞のうち、シティのティの部分と次のボーイの部分の 音階が気になった人がいるのではないか。これは先の階名の4つ目のレ#と次のドに あたり、それぞれB♭maj7(A#maj7)、Gmの上に発音される。B♭maj7(A#maj7)はラ#、 レ、ファ、ラから構成され、レ#は非和声音、つまりコードアウトしていてしかもテ ンション(maj7)であるラとの干渉が気持悪く、常識的には使わない音階である。 Gmにおけるドもまた非和声音で、この曲のサビはこれら不安定なわずか2つの音が一 瞬出現するあたりが非常におもしろく、これはわざとやったことなのか、あるいは本 来違うコード進行で作ったサビに循環コードを無理矢理あてはめた為にここだけ非和 声になり「まあいいじゃん、このくらいのコードアウトは」とドンマイ精神でオッケ ーにしてしまった賜物なのか、いずれにせよ滅多にない面白い音感である。

といった具合に非常に面白い成り立ちをした、非常によくできた佳曲であ る。なにはともあれ、あのニールのフワフワボーカルでやられてしまうとどんな曲で もポップに聞こえてしまうというのが一番大きい要素のような気もするが、ここまで 説明してきてそれを言ってしまうと元も子もないので、そこだけはあまり触れないよ うにしておきたい。音楽理論で説明するのも五線譜を使わないとなかなか説明が難し かったが、いい曲が何故いいのか?というところを理屈で説明するのも面白いものだ ね、「たまには」だけれど、あくまでも。


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